Share

第11話  

Author: リンフェイ
「行こう」

結城理仁は心の中で内海唯花に小言を呟いたが、直接彼女に何か言ったりしたりはしなかった。

内海唯花は彼の妻だが、名義上だけだ。お互いに見知らぬ人と変わらなかった。

運転手は何も言えず、また車を出した。

一方、内海唯花は夫の高級車にぶつかりそうになったことを全く知らず、電動バイクに乗ってまっすぐ店に戻った。牧野明凛の家は近くにあるので、彼女はいつも内海唯花より先に店に着いていた。

「唯花」

牧野明凛は店の準備が終わってから、買ってきた朝食を食べていた。親友が来たのを見て、微笑んで尋ねた。「朝もう食べたの」

「食べたよ」

牧野明凛は頷き、また自分の朝食を食べ始めた。

「そういえば、おいしいお菓子を持ってきたよ、食べてみてね」

牧野明凛は袋をレジの上に置き、親友に言った。

電動バイクの鍵もレジに置くと、内海唯花は椅子に腰をかけ、遠慮なくその袋を取りながら言った。「デザートなら何でも美味しいと思うよ。あのね、明凛、聞いて。ここに来る途中で、ロールスロイスを見かけたよ」

 牧野明凛はまた頷いた。「そう?東京でロールスロイスを見かけるのは別に大したことじゃないけど、珍しいね。乗っている人を見た?小説によくあるでしょ、イケメンの社長様、しかも未婚なんだ。そのような人じゃない?」

内海唯花はただ黙って彼女を見つめた。

にやにやと牧野明凛が笑った。「ただの好奇心だよ。小説の中には若くてハンサムなお金持ち社長ばかりなのに、どうして私たちは出会えないわけ?」

「小説ってそもそも皆の嗜好に合わせて作られたものでしょ。どこにでもいるフリーターの生活を書いたら誰が読むのよ、まったく。社長じゃなくても、せめてさまざまな分野のエリートの物語じゃないとね」

それを聞いた牧野明凛はまた笑いだした。

「そうだ。唯花、今晩あいてる?」

「私は毎日店から家まで行ったり来たりする生活をしてるだけだから暇だよ、何?」

内海唯花の生活はいたってシンプルだった。店のこと以外は、姉の子供の世話だけだった。

「今晩パーティーがあるんだ。つまり上流階級の宴会ってやつなんだけど、一応席を取ったから、一緒に見に行きましょ!」

内海唯花は本能的に拒絶した。「私のいる世界と全く違うから、あんまり行きたくない」

 確かに月収は悪くないのだが、上流階級の世界とは次元が違うので、全くそこに入りたくないし、そもそも入ること自体もできないのだ。

少し悪い言い方をすれば、彼女のような身分でそのような高級なパーティーに出ても、使用人としか思われないだろう。

「本当は私も行きたくなかったんだよ。でも、お母さんがおばさんに頼んで招待状をもらったの。一つの招待状で二人入れるの。それで、唯花のことを思い出したのよ。唯花、唯花様、お願いだから、ちょっと私に付き合って一緒に経験を積みましょ。いや、そうじゃなくて、私と一緒に適当に過ごしてくれればいいから。もうお母さんに耳が痛くなるほど言われたんだから、お願い!」

牧野家は以前からここに住まいを構えていた大金持ちだ。数軒の不動産と一本通りにある店舗の半分は人に貸して賃貸料をもらっていた。資産は少なくても数億だが、それでも名門貴族とは程遠いものだった。

牧野の母親は娘の整った顔立ちを自慢していて、娘を名門家庭のお嫁さんにしようとしていた。ちょうど牧野のおばさんは玉の輿に乗り、数十年の辛抱を重ねて、ようやく上流社会の一員になったのだ。

そのおばさんも牧野明凛のことを可愛がっていた。姪っ子なら玉の輿に乗ってもぎりぎり合格だと思ったので、牧野の母親がその話を切り出すと、喜んで引き受けて、絶対力になると約束した。

「またお母さんにいつ結婚するのかって催促されたの?」

「世の中の母親はみんな同じよ。娘を大人になるまで育てたら、すぐお嫁に出したがるの。毎日結婚結婚って急かされるなんて。私家にいても、別にお金に困ってるわけじゃないでしょ。自分で稼げるし、自立しているし、ちゃんと一人の生活を満喫しているんだよ。男なんて全然いらないじゃない?独身最高だよ」

「それに、玉の輿には絶対乗りたくないからね、嫁に行っても似たような家柄のところへ行ったほうがいいと思う。おばさんは今、確かに上流社会でうまくやっているけど、それには何十年もかかったんだよ。おじさんの所に嫁いだ時、どれほどの苦労を凌いだことか。昔実家に帰ってくると、裏でよくお母さんに泣きついてたの。その気持ち、おばさん自身が一番知っているはずよ」

牧野明凛は自由を愛し、名門のしきたりにちっとも縛られたくなかった。

「唯花、お願いだから、今晩だけ、一緒に行きましょう!視野を広めるためだと思ってもいい。おばさんが言ってたの。今夜のパーティ―には、東京でも指折りに数えられるほどのビジネスの大物ばかりなんだって。二代目や三代目の若い後継者たちも大勢集まってくるって。もちろん、婿釣りに行くんじゃなくて、ただ見るだけ。一番重要なのはご馳走がいっぱい出てくることよ」

内海唯花は食いしん坊だ。

牧野明凛も同じだ。

この二人が親友になれたのは、意気投合したからだった。

親友に一時間もしつこくねばられ、内海唯花は諦めて受け入れた。夜になると、早めに店を閉めて、親友に付き合ってパーティーに出席することにした。

姉に電話すると、甥っ子はもう医者に診てもらったようだった。ただの風邪で熱が出たので大したことじゃないと聞いて、ほっとした。

今夜、牧野明凛の付き添いでパーティーへ行くことも姉に伝えた。

「視野を広めるのはいいことだよ。もちろん、その階層の友達ができるのもいいことだわ」

佐々木唯月は妹がパーティーへ行くことに賛成だった。

不埒な目的を持たず、ただ自分と違う世界を見て、視野を広めるのだ。

夜のパーティーのために、昼ご飯を食べてからもう店を閉めた。牧野明凛は親友を連れて家へ帰った。身だしなみの準備と化粧をしなければならなかったのだ。

牧野家のみんなは内海唯花のことが気に入っており、彼女を連れてパーティーへ行くことについて誰も反対しなかった。どうせ内海唯花はもう結婚していたから、魅力が霞んでしまうこともないからだ。

夕方六時を過ぎたところ、牧野のおばさんの手配した高級車はもう牧野家の前に止まっていた。

「楽しんできてちょうだいね」

牧野の母親は二人を玄関まで送って、内海唯花に頼んだ。「唯花ちゃん、明凛のことを頼んだわよ。おばさんに代わってこの子をちゃんと見ててね。ただ食べてばかりいないでもっと若い人たちと交流させてやってちょうだい」

そして、また娘に向かって言った。「明凛、くれぐれもおばさんの苦心を無駄にしないでね、わかった?」

内海唯花は微笑んだ。「心配しないでください。明凛が食べてばかりいられないように、私がちゃんと見張りますから」

だって、二人一緒に食べるものだ。

「唯花ちゃんがいれば、おばさんも安心だわ」

 牧野の母親が内海唯花のことをとても気に入っているのは、しっかりしていて、ちゃんと自立できた娘だからだ。もし自分の息子が彼女より何歳も年下でなければ、息子の嫁として迎えたいと思っていた。

内海唯花がスピード結婚したことを知って、非常に悔しそうだった。牧野家には若者がたくさんいて、内海唯花が嫁に行きたいならその中から選べばよかったのに。

もうここまで来て、どう悔しがってもしょうがなかった。だからこの件については触れないことにした。

牧野の母親にせかされ、白いドレスを着て、綺麗な化粧をし、宝石のアクセサリーも付けた牧野明凛は慌てて親友の手を取って、一緒におばさんが手配した高級車に乗った。

 内海唯花はもう結婚していて、親友の付き添いでパーティーに参加するため、服も着替えず普段着を着ていたが、一応薄化粧をしていた。身なりは質素であっても、彼女の生まれつきの美しさは隠すことはできなかった。
Continue to read this book for free
Scan code to download App

Related chapters

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第12話

    パーティーが開かれた場所はスカイロイヤルホテル東京だった。普段なら内海唯花とは縁のない所だった。スカイロイヤルホテル東京は市内の最高級ホテルの一つとして、七つ星ホテルと言われているが、果たして本当にそうなのかどうか、内海唯花は知らなかったし、個人的に興味もなかった。内海唯花たちより先にホテルに着いた牧野のおばさんは知り合いの奥さんたちと挨拶を交わした後、息子と娘を先にホテルに入らせて、玄関で姪っ子が来るのを待っていた。姪っ子を迎えに行かせた車が他の車の後ろについてゆっくり到着したのを見て、彼女の顔に笑みが浮かんだ。すると、牧野明凛は海内唯花を連れておばさんの前にやってきた。「おばさん」「おばさん、こんばんは」海内唯花は親友と一緒に挨拶をした。 姪っ子が内海唯花を連れて来ることを知った牧野のおばさんは、少し気になっていた。実際に彼女に会ったことがあるからこそ、この両親を失った娘が自分の姪っ子より美人であることを認めなければならなかった。いたって普通の家庭出身なのに、顔立ちと仕草にはどこかお嬢様の気品が漂っていた。彼女と一緒だと、姪っ子の美しさが霞んでしまうのではないかと心配していたが、もう結婚していると義姉から聞いて、一安心した。目の前の内海唯花をよく見ると、彼女はドレスすら着ていなかった。普段着に薄化粧しているだけで、高いアクセサリーもつけていなかった。彼女のその生まれつきの美しさもおしゃれした姪っ子の前では覆い隠されてしまい、牧野のおばさんはやっと安心して頷いた。内海唯花は本当によく気の利く、物分りがいい娘だと思った。「よく来たね。私が連れて行ってあげるわ。明凛、招待状を出しておいてね。中に入るのに必要なんだ。チェックしないと」牧野明凛は慌てて自分の招待状を出した。「中に入ったら言葉には気をつけるのよ。ちゃんと見てちゃんと聞くの。頃合いを見計らって紹介してあげるわ。唯花ちゃん、あなたは明凛より大人だから、彼女が何かやらかさないように見張ってちょうだいね。お願いするわよ。スカイロイヤルホテル東京はここの社長が管理しているホテルの中の一つなの。その家のお坊ちゃんたちも今夜のパーティーに顔を出すかもしれないわ」牧野のおばさんはこっそりと姪っ子に言った。「明凛、もしあなたがここの御曹司のご機嫌を取ることができたら、牧

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第13話

    結城理仁は大勢の人に囲まれて入ってきて、隅っこに隠れていた新妻がいることに全く気付かなかった。内海唯花も同様、人垣をかき分けて自分の夫を見るすべもなかった。 暫く背伸びして眺めていたが、当事者の姿が全然見えないと、すっかり興味を失ったように椅子に座り直して、親友を引っ張りながら言った。「どうせ見えないから、見なくてもいいよ。食べましょ」彼女にとって、今晩ここに来た一番重要な課題は食べることだから。「唯花、ここでちょっと待ってて、さっき誰が来たのか、ちょっとおばさんに聞いてくる。こんなに大勢が集まるって、まるで皇帝のご帰還じゃないの」内海唯花は適当に「うん」と相槌した。牧野明凛は一人でその場を離れた。 取ってきたものを全部食べ終わった内海唯花は空になった皿を持って立ち上がった。みんなが偉い人の所へ行っているうちに、自分は簡単に食べ物が取れて、他人の異様な視線も気にしなくてよかったのだ。結城理仁は入ってくると、まず今夜のパーティーを主催した社長と世間話をしていた。周りのボディーガード達はしっかり周囲の動きに注意を払っていた。なぜなら、この若旦那は女が近づいてくるのを好まなかったからだ。毎回こういう場面で彼らがいつも付いていくのは、不埒なことを考える人から若旦那を守るためだった。名高いボディーガードの身長も高いので、視線も他人より高く、遠くまで見える。本能的に会場を見回していると、女主人の姿を見たような気がした。結城理仁は正体を隠して海内唯花と結婚したのだが、周りのボディーガードは彼女のことを知っていた。そのため、最も内海唯花を知るのは結城おばあさんを除けば、このボディーガード達だった。内海唯花を見たボディーガードは最初、自分の見間違いだと思って、目を凝らしていたが、やっぱりその人は女主人様じゃないか。彼女は自分の夫が来てもかまわず、二つの皿を持ちながら、自分の好きなものを楽しく選んでいた。やがて、お皿が二つともいっぱいになると、その二皿分の料理を持ち、人に気づかれにくい隅っこのテーブルへ行った。 そして、何事もなかったかのように、食事を楽しんでいた。 ボディーガードは無言になった。「......」結城理仁が何人かの顔見知りの社長たちと話を済ませた後、そのボディーガードは隙を見て彼の傍へ来て、小声で報告した。「若

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第14話

    牧野明凛はグラスを口元まで持ち上げて、ワインを一口飲んだ。「小説の読みすぎじゃない?同名同姓の人なんかそこら辺にたくさんいるわよ。同姓というなら、京都の有名な大金持ちの苗字は鈴木だよ、世の中の鈴木さんは全部彼の親戚というわけ?」牧野明凛は笑った。「それもそうだね」「うちのはただのサラリーマンで、持ってる車も250万ぐらいのホンダ車よ。結城家の御曹司もそういう車にするの?もう、考えすぎだよ」内海唯花は玉の輿なんて考えたこともなかった。夢を見るのはいいのだが、見すぎるのはよくないと思っていた。「ところで、結城家の御曹司って、そんなに女性のことを拒絶してて、ホモなんじゃ?結婚してるの?」内海唯花はそのお坊ちゃんの顔には興味なかったが、彼がそんなに女性の接近を拒絶しているのは、高潔であるか、あるいは何か問題があるか、アッチ系なのかもしれないと思っていた。「結婚の話は聞いたことないわね。私たちは庶民とはいえ、結城家の当主が結婚したら、東京中、絶対大騒ぎになるよ。ネットといい、新聞といい、彼の結婚のニュースでもちきりになるわよ。それがないってことはつまりまだ独身だってことでしょ」牧野明凛はグラスを置いた。「そうだね、何か問題があるかもしれないよね。だって、そんなに立派な男性なら、恋人がいないなんておかしいわよ」「お金持ちの考えなんて、私たちには一生わからないかもよ。もう、食べましょうよ。食べ終わったらさっさと帰りましょ」「うん」と牧野明凛が答えてから、二人はまた遠慮なくご馳走を楽しんだ。多くの人が二人のことを見た。ある人はすぐ目をそらしたが、またある人は嫌そうな顔をして、あざ笑った。どこかのご令嬢が若い使用人を連れてきて、今までろくなものを食べたことがないみたいに、一晩中ずっと隅っこで飲み食いしているなんて、はしたない。それにしても、この二人よく食べたね!「明凛姉さん」牧野のおばさんの息子である金城琉生が近づいてきた。彼は牧野明凛より三歳年下で、幼いころから仲のよかった従弟だ。親に付き合って一週挨拶回りした後、母親は突然従姉の明凛のことを思い出すと、彼に頼んで探させた。「琉生、こっちに座って」牧野明凛は椅子を引いて、従弟を座らせた。内海唯花が笑顔を見せると、金城琉生は顔を少し赤く染めて、彼女にグラスをあげ、

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第15話

    牧野明凛は満足そうに食べ終ると、金城琉生の話を聞いて笑い出した。「琉生、おねえさんはね、逸材な男なんかに全然興味ないのよ。今晩唯花と一緒に来て、ただ視野を広げるついでに、ご馳走を楽しんでるの。さすが七つ星のホテル、食べ物が全部おいしかったよ。私たちはもう満足したわ」金城琉生は無言になった。「......」「もう満足したし遅いから、琉生、先に唯花と一緒に帰るね。おばさんに言っておいて」それを聞いた金城琉生は少し焦った。チラッと内海唯花のことを見ながら言った。「明凛姉さん、もう帰っちゃうの?パーティーはまだまだ続くんだ。まだそんな遅い時間じゃないじゃないか。十一時まで続くらしいよ」「私たち、明日も店を開かないといけないから、夜十一時までいられないよ」と内海唯花は答えた。金城琉生も二人につれて一緒に立ち上がった。「でも、店なら少しくらい遅れてもいいんじゃないんですか」内海唯花の隣について、彼は二人の姉をもう少し引き止めようとしていた。「そうはいかないよ。うちは毎日、登校下校塾帰りのラッシュ時間に稼いでるんだよ。朝を逃したら、結構な損なんだから」牧野明凛は自分の従弟の方を叩き、からかうように笑った。「琉生、一人で楽しんでね。まだまだ子供だけど、もし好きな子が見つかったら、恋愛はどういうものか、試してもいいんだよ」またチラッと内海唯花を見た金城琉生は顔を赤らめて、はにかんだように言った。「明凛姉さん!僕まだ大学を卒業したばかりだよ。何年か働いてから結婚のことを考えるつもりだ」海内唯花は何気なく言った。「男の子なんだから、そんなに焦らなくても。まだ二十二歳でしょう。二年でも経ってからまた考えてもいいんじゃない」金城琉生がうなずくと、彼女はまた懐かしそうに声をあげた。「琉生君に出会った時、まだまだ子供だったよね。あっという間にこんなに立派になっちゃって」「......」彼はまた黙ってしまった。姉たちを止められず、金城琉生はやむを得なく二人をホテルの外まで送り出した。 「明凛姉さん、車で来たんじゃなかった?」「おばさんが迎えの車を手配してくれたよ」牧野明凛は全然気にしてなかった。「唯花とタクシーで帰るから、琉生、戻っていいよ。おばさんに言っとくのを忘れないで。じゃ、先に帰るよ、楽しんできて」ホテルの入り口にもた

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第16話

    東京の商業界では、結城理仁に認められようものなら、これからチート人生が送れるに違いなかった。未来が保証されるのだ。金城夫妻が息子をパーティーに連れて来るのは、子供にここで友人を作ってもらい、将来のために後ろ盾を作っておいてもらいたいからだ。「金城さん、先程は?」「姉たちを送ってきたところです」金城琉生は結城理仁の言葉を待たず、先に自分が今何をしていたのか恭しく説明した。この場を好まず、ホテルのサービスも気にくわないと結城理仁に誤解されるのを恐れたのだ。スカイロイヤルホテル東京は結城家が所有するホテルの一つだからだ。結城理仁はうんと頷いて、金城琉生の前を通り過ぎた。ただ礼儀として目の前にいた金城琉生に挨拶を交わしたかのように。まだ状況をよく把握しきれない金城琉生が知ったのはただ、大勢の人に囲まれた結城理仁がここから離れると、自分がたちまち誰にも知られないモブになってしまったことだった。結城理仁はパーティーに出る時は、ほとんど少し顔を出すだけで、長居はしないので、みんなも慣れたことだった。どの短い時間に機会を逃さず結城理仁と商売の話ができた社長たちは思わずこっそり笑みを浮かべた。これはスピードの勝負だった。チャンスをつかんだ彼らはすっかり満足したのだ。まもなく、「世田谷XXX‐777」というナンバーがついたロールスロイスが数台のガード車に守られ、スカイロイヤルホテル東京から去っていた。「若旦那様、今日はどちらへ帰られますか」運転手は車を走らせながら尋ねた。結城理仁は腕時計を見て、まだ九時だと確認した。彼にとってこの時間はあまりにも早かった。暫く考えてから決めた。「トキワ・フラワーガーデンへ」畏まりましたとドライバーが応じた。 意外なことに、内海唯花より彼のほうが先に家に帰った。誰もいない、温かさも感じられない、誰もいない小さな家だ。結城理仁はソファに座り、退屈そうにテレビを見ながら、先にホテルを出てまだ帰ってこない妻を待っていた。ボディーガードはパーティーで撮った内海唯花の行動の写真を彼の携帯に送ってきた。結城理仁は一枚ずつゆっくりと見て、この女、何年もいい物をろくに食べたことがないかのようにずっと食べていた。という結論を出した。しかし、他の男を誘うよりは、隅っこでこっそり食べているほうがましだ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第17話  

    「うん」 結城理仁は低い声で返事した。内海唯花は透明なビニール袋を一つ持って、近づいてきた。「おいしい納豆を買ってきましたよ。食べますか」結城理仁は思わず暗い顔をして彼女を睨んでいた。パーティーでひたすら食べていたのに、あれでもまだ満足できなかったか。どんだけ食いしん坊なんだ!「匂いはきついかもしれませんが、食べれば食べるほどおいしく感じますよ。私が大好きだったあの男性も好きでしたよ」内海唯花はそのまま結城理仁の隣に座り、ビニールを開けた。納豆の匂いが漂ってくると、結城理仁は慣れない匂いにむせないように距離を取ろうと、さりげなく少し横へ体を動かした。「好きだった男?」「一万円札のあの方ですよ」「......」お金は結城理仁にとってただキャッシュカードに表示された無意味の数字の並べでしかなかった。「一口だけ食べてみませんか。本当においしいですよ。独特な匂いだけど、私は結構好きですよ」「いらない、自分で食べてろ。それに、ベランダで食べてくれないか?俺はこういう匂いが苦手なんだ」彼のへどが出そうな顔を見ると、内海唯花は慌てて袋をもって距離をとりながら心の中で呟いていた。収入が高い人は生活も普通の人と違って、拘っているんだねと。彼女はベランダで楽しんで残った納豆をいただいた。その後姿を部屋から見ていた結城理仁は顔色をコロコロ変えたが、結局何も言わなかった。人の好みはそれぞれだから。「結城さん、今晩残業がないなら、明日はちょっと早く起きてもらえませんか」ベランダで内海唯花は部屋にいる男に問いかけた。結城理仁はしばらく無言で、やや冷たく返事した。「なんだ?」もともと無愛想な人なのでしょう。だって初めて彼に出会った時から、いつも冷たい言葉遣いをしていたから。内海唯花は思わず心の中で彼のことをツッコんだ。しかし、ただ一時的に一緒に暮らすだけだから、それができなくなったら離婚すればいいだけの話だ。「車で市場の花屋まで送ってもらいたくて。鉢植えの花を買って、ベランダで育てたいんですが、車を出してくれたら助かります」結城理仁は何も言わなかった。「もし早く起きられないんでしたら、車を貸してくれるだけでもいいですから。自分でも行けますよ」「何時?」結城理仁は少し悩んだが、結局彼女に時間

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第18話

    「今晩店にいなかったんですよ。友達からパーティーに一緒に来てくれって頼まれましたから、その子に付き合って行ったんです。そういえば、結城さんに聞きたいことがあるんです。答えてくれませんか。」結城理仁の向かいに腰をかけた内海唯花は大きくてきれいな目で男を見つめた。彼女は知っていた。いつも無愛想で冷たく、彼女に対する態度もあまりよくない結城理仁は心のなかに防衛線を張っていた。他の人ではなく、彼女だけを警戒していた。しかし、彼は本当に整った顔をしていた。外の一番美しい風景のようで、見ているだけでも満足が得られる。「今夜のパーティーはスカイロイヤルホテル東京でやっていました。そのホテルは東京の大富豪が経営しているそうです。今夜、その大富豪の御曹司も来ていて、彼の苗字がなんと同じ結城だそうですよ。結城さんはその大富豪家と関係ないでしょう?」結城理仁は顔色も変えず、淡々と「五百年前なら同じ釜で飯を食べたことがあるかもしれない」と答えた。内海唯花はほっとした。笑いながら言った。「そうですよね。全く関係ないんですよね」ほっとしてから嬉しそうにしていた彼女に、結城理仁は思わず問いかけた。「俺にあの家と関係があってほしくないのか?」「もう夜ですね」内海唯花はニコニコしながら言った。「寝言なら寝て言ってくださいね」「もし大富豪の結城家と関係があったら、見知らぬ私なんかと結婚するものですか。どう考えても、答えははっきりしているでしょ。私が結城家のお嫁になる可能性は毎日スカイロイヤルホテル東京へ食事をしに行くほど低いですよ。たとえ結城さんが分家の人だったとしても、釣り合わないと思って、気楽に一緒に暮らせませんよ」「あなたたちが何の関係もなくて、私たちがお互い同じレベルにいるからこそ楽なんです」結城理仁は黙っていた。「おばあさんに聞きました。大企業で働いていますよね。結城御曹司のことを知っていますか。その大富豪家のお坊ちゃまのことです。彼が今晩来た時、まるで王様が帰還したように、周りの人にちやほやされていて、私は明凛と背を伸ばしても、ひと目も見ることができなかったんですよ」結城理仁は相変わらず沈黙を貫いて、内海唯花を見つめている目がさらに冷たくなった。「その結城さんにはいつもボティーガードがついていて、若い女性が近づくのは許されていないそう

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第19話  

    「週末にあなたの両親に会った後、実家に戻って竹を二本切って持ってきますね」 理仁は淡々と言った。「必要ない。明日人を呼んで取り付けてもらうから」 立派な結城家の長男の嫁が、ただ洗濯物を干すために、わざわざ田舎に帰って竹を二本切って持ってくるなんて、よくもそんなことを思いついたものだ。 「それでもいいですよ。それならお願いしますね」 「ここも俺の家だ」 唯花は軽く返事をし、自分の服を抱えて部屋に向かって歩きだした。ドアを開けた後、振り返って結城理仁に言った。「もしよかったら、あなたが脱いだ服も出しておいてください。私が洗濯するときに一緒に洗いますから」 「いいよ、ありがとう。明日、洗濯機を買って運んできてもらうから。二つの部屋の浴室にそれぞれ一台ずつ置くと便利だしな」 「それでもいいですよ。洗濯機を買うのにいくらかかったか、また教えてくれます?半分は私が出しますので」 彼はすでに彼女に生活費用のキャッシュカードを渡していた。彼がまた洗濯機を買うとなると、彼にそのお金全てを出してもらうわけにはいかなかった。 結城理仁は淡々と言った。「洗濯機二台なんて大した金額じゃない。せいぜい数十万円だから、俺が十分に出せる。それに、これは俺たちの家のために買う家具だし」  彼女に家計を管理できない男だと勘違いされたくなくて、彼はされに説明を加えた。「普段、俺は仕事が忙しく、朝早く出て夜遅く帰るから、服はクリーニング店に出していた。それで洗濯機を買ってなかったんだ」 彼が家計を管理できないわけではなく、ただそれほど多くのことを考えていなかっただけで、生活に何が必要かもわからなかったのだ。この三十年間、できることは自分でやるが、彼は結城家の長男として裕福な生活を送ってきたのだ。 洗濯は本当にやったことがなかった。 「わかりますよ」 唯花も、多くのエリートサラリーマンは仕事が忙しくて、日常生活の細かいことを気にしないことが多いと知っていた。 「結城さん、あなたも早く休んでくださいね」  唯花は部屋に入り、すぐにドアを閉めて鍵をかけた。 理仁は彼女が鍵をかける音を聞いて、少し寂しい気持ちになった。彼女が自分を警戒していると感じたのだ。しかし、自分も夜寝る時は部屋のドアに鍵をかけ、窓も閉めて彼女を警戒していたことを思い出し、こ

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第596話

    その時、聞いていて我慢できなくなった人が英子に反論してきた。「そうだ、そうだ。自分だって女のくせに、あんなふうに内海さんに言うなんて。内海さんがやったことは正しいぞ。内海さん、私たちはあなたの味方です!」「こんな最低な義姉がいたなんてね。元旦那が浮気したから離婚したのは言うまでもないけど、もし浮気してなくたって、さっさと離婚したほうがいいわ、こんな最低な人たちとはね。遠く離れて関わらないほうがいいに決まってる」野次馬たちはそれぞれ英子を責め始めた。そのせいで英子は怒りを溜め顔を真っ赤にさせ、また血の気を引かせた。唯月が彼女に恥をかかせたと思っていた。そして彼女は突然、力いっぱい唯月が支えていたバイクを押した。バイクは今タイヤの空気が抜けているから、唯月がバイクを押すのも力を入れる必要があった。それなのに英子が突然押してきたので、唯月はバイクを支えることができず、一緒に地面に倒れ込んでしまった。「金を返せ。あんたのじいさんがお母さんから金を受け取ったのを認めないんだよ。じいさんの借金は孫であるあんたが返せ、さっさとお母さんに金を払うんだよ」英子はバイクと一緒に唯月を地面に倒したのに、それでも気が収まらず、彼女が持っていたかばんを振り回して力を込めて唯月を叩いた。さらには足も使い、立て続けに唯月を蹴ってきた。唯月はバイクを放っておいて、立ち上がり乱暴に英子からそのかばんを奪い、狂ったように英子を殴り返した。彼女は英子に対する恨みが積もるに積もっていた。本来離婚して、今ではもう佐々木家とは赤の他人に戻ったので、ムカつくこの佐々木家の人間のことを忘れて自分の人生を送りたいと思っていた。それなのに英子は人を馬鹿にするにも程があるだろう、わざわざ問題を引き起こすような真似をしてきた。こんなふうに過激な態度に出れば、善悪をひっくり返せるとでも思っているのか?この間、唯月と英子は殴り合いの喧嘩をし、その時は英子が唯月に完敗した。今日また二人が殴り合いになったが、佐々木母はもちろん自分の娘に加勢してきた。この親子は手を組んで、唯月を二対一でいじめてきたのだ。「警察、早く警察に通報して!」その時、誰かが叫んだ。「すみません警備員さん、こっちに来て喧嘩を止めてちょうだい。この女二人がうちの会社まできて社員をいじめてるんです」

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第595話

    唯月がその相手を見るまでもなく、誰なのかわかった。その声を彼女はよく知っている。それは佐々木英子、あのクズな元義姉だ。佐々木母は娘を連れて東グループまで来ていた。しかし、唯月は昼は外で食事しておらず、会社の食堂で済ませると、そのままオフィスに戻ってデスクにうつ伏せて少し昼寝をした。それから午後は引き続き仕事をし、この日は全く外に出ることはなかったのだ。だからこの親子二人は会社の入り口で唯月が出てくるのを、午後ずっとまだか、まだかと待っていたのだ。だから相当に頭に来ていた。やっとのことで唯月が会社から出てきたのを見つけ、英子の怒りは頂点に達した。それで会社に出入りする多くの人などお構いなしに、大声で怒鳴り多くの人にじろじろと見られていた。物好きな者は足を止めて野次馬になっていた。唯月はただの財務部の職員であるだけだが、東社長自ら採用をしたことで会社では有名だった。財務部長ですら、自分の地位が脅かされるのではないかと不安に思っていた。唯月は以前、財務部長をしていたそうだし。上司は唯月を警戒せずにいられなかった。さらに、唯月が東社長に採用されことで、上司は必要以上に彼女のことを警戒していたのだ。唯月は彼女にとって目の上のたんこぶと言ってもいい。周りからわかるように唯月を会社から追い出すことはできないから、こそこそと汚い手を使っていた。財務部職員によると、唯月は何度も上司から嫌がらせを受け、はめられようとしていたらしい。しかし、彼女は以前この財務という仕事をやっていて経験豊富だったので、上司の嫌がらせを上手に避けて、その策略に、はまってしまうことはなかった。「あなた達、何しに来たの?」唯月は立ち止まった。そうしたいわけじゃなく、足を止めるしかなかったのだ。元義母と元義姉が彼女の前に立ちはだかり、バイクを押して行こうとした彼女を妨害したのだ。「私らがどうしてここに来たのかは、あんた、自分の胸に聞いてみることだね。うちの弟の家をめちゃくちゃに壊しやがって、弁償しろ!もし内装費を弁償しないと言うなら、裁判を起こしてやるからね!」英子は金切り声で騒ぎ立て、多くの人が足を止めて野次馬になり、人だかりができてきた。彼女はわざと大きな声で唯月がやったことを周りに広めるつもりなのだ。「あなた方の会社の社員、ええ、内海唯

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第594話

    「伯母さんはあなた達が簡単にやられてばかりな子たちだとは思っていないわ。ただ妹のためにも、あの人たちをギャフンと言わせてやりたいのよ」唯花はそれを聞いて、何も言わなかった。それから伯母と姪は午後ずっと話をしていた。夕方五時、詩乃はどうしても唯花と一緒に東グループに唯月を迎えに行くと言ってきかなかった。唯花は彼女のやりたいようにさせてあげるしかなかった。そして、唯花は車に陽を乗せ自分で運転し、神崎詩乃たち一行と颯爽と東グループへと向かっていった。明凛と清水は彼らにはついて行かなかった。途中まで来て、唯花は突然おばあさんのことを思い出した。確か午後ずっとおばあさんの姿を見ていない。唯花はこの時、急いでおばあさんに電話をかけた。おばあさんが電話に出ると、唯花は尋ねた。「おばあちゃん、午後は一体どこにいたの?」「私はそこら辺を適当にぶらぶらしてたの。仕事が終わって帰るの?今からタクシーで帰るわ」実はおばあさんはずっと隣のお店の高橋のところにいたのだった。彼女は唯花たちの前に顔を出すことができなかったのだ。神崎夫人に見られたら終わりだ。「おばあちゃん、私と神崎夫人のDNA鑑定結果がでたの。私たち血縁関係があったわ。それで伯母さんが私とお姉ちゃんを連れて一緒に神崎さんの家でご飯を食べようって、だから今陽ちゃんを連れてお姉ちゃんを迎えに行くところなの。おばあちゃんと清水さんは先に家に帰っててね」「本当に?唯花ちゃん、伯母さんが見つかって良かったわね」おばあさんはまず唯花を祝福してまた言った。「私と清水さんのことは心配しないで。辰巳に仕事が終わったら迎えに来てもらうから。あなたは伯母さんのお家でゆっくりしていらっしゃい。彼女は数十年も家族を捜していたのでしょう。それはとても大変なことだわ。伯母さんのお家に一晩いても大丈夫よ。私に一声かけてくれるだけでいいからね」唯花は笑って言った。「わかったわ。もし伯母さんの家に泊まることになったら、おばあちゃんに教えるわね」通話を終えて、唯花は一人で呟いた。「午後ずっと見なかったと思ったら、また一人でぶらぶらどこかに出かけてたのね」年を取ってくると、どうやら子供に戻るらしい。そして唯月のほうは、妹からのメッセージを受け取り、彼女たちが神崎夫人と伯母と姪の関係で

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第593話

    昔の古い人間はみんなこのような考え方を持っている。財産は息子や男の孫に与え、女ならいつかお嫁に行ってしまって他人の家の人間になるから、財産は譲らないという考え方だ。息子がいない家庭であれば、その親族たちがみんな彼らの財産を狙っているのだ。跡取り息子のいない家を食いつぶそうとしている。それで多くの人が自分が努力して作り上げた財産を苗字の違う余所者に継承したがらず、なんとかして息子を産もうとするのだった。「二番目の従兄って、内海智文とかいう?」詩乃は内海智文には覚えがあった。主に彼が神崎グループの子会社で管理職をしていて、年収は二千万円あったからだ。彼女たち神崎グループからそんなに多くの給料をもらっておいて、彼女の姪にひどい仕打ちをしたのだ。しかもぬけぬけと彼女の妹の家までも奪っているのだから、智文に対する印象は完全に地の底に落ちてしまった。後で息子に言って内海智文を地獄の底まで叩き落とし、街中で物乞いですらできなくさせてやろう。「彼です。うちの祖父母が一番可愛がっている孫なんですよ。彼が私たち孫の中では一番出来の良い人間だと思ってるんです。だからあの人たちは勝手に智文を内海家の跡取りにさせて、私の親が残してくれた家までもあいつに受け継がせたんです。正月が過ぎたら、姉と一緒に時間を作って、故郷に戻って両親が残してくれた家を取り戻します。家を売ったとしても、あいつらにはあげません!」そうなれば裁判に持っていく。今はもうすぐ年越しであるし、姉が離婚したばかりだから、唯花はまだ何も行動を起こしていないのだ。彼女の両親が残した家は、90年代初期に建てられたものだ。実際、家自体はそんなにお金の価値があるものではないが、土地はかなりの値段がつく。彼女の家は一般的な一軒家の坪数よりも多く敷地面積は100坪ほどあるのだ。彼女の両親がまだ生きていた頃、他所の家と土地を交換し合って、少しずつ敷地面積を増やしていき、ようやく100坪近くある大きな土地を手に入れたのだった。母親は、彼女たち姉妹に大人になって自立できるようになったら、この土地を二つに分けて姉妹それぞれで家を建て、隣同士で暮らしお互いに助け合って生きていくように言っていたのだ。「まったく人を欺くにも甚だしいこと。妹の財産をその娘たちが受け継げなくて、妹の甥っ子が資格を持っ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第592話

    姫華は唯花たちが引っ越し作業を終えてから、ようやく自分がそんなに面白いことを逃したのだと知ったのだった。だから彼女は明凛と唯花に不満を持っていた。明凛は唯花に姫華にも教えるよう言ったが、唯花が彼女はお嬢様だから家をめちゃくちゃにするという乱暴なシーンは見せたくないと思い姫華には伝えなかったのだ。確かに姫華は名家の令嬢であるが、神崎姫華だぞ。神崎姫華は星城の上流社会ではあまり評判が良くない。他人が彼女のことを横暴でわがまま、理屈が通じないというくらいなのだから、そんな彼女が家を壊すくらいのシーンで音を上げるとでも?逆に、彼女自身も機嫌が悪い時にはハチャメチャなことをしでかすというのに。「姉がもらうべき分はしっかりと財産分与させました。ただ内装費に関しては佐々木家が拒否したので、私たちが人を雇ってその内装を全て剥がしたんです」詩乃はそれを聞いて「それはそうすべきよ。どうして佐々木家においしい思いをさせる必要なんてあるかしら」と唯花たちの行動を当たり前だと言った。そして最後にまた残念そうにこう言った。「もし伯母さんが知っていれば、あなた達の家族として、大勢で彼らのところまで押しかけて内装費を意地でも出させてあげたものを。これは正当な権利よ」この時、唯花はふいに姫華の性格は完全に母親譲りなのだと悟った。「唯花ちゃん、もうちょっとしたらお店を閉めて私たちと一緒に神崎家に帰りましょう。家族みんなで食事をするの。そうだ、あなたの旦那さんはお時間があるのかしら?彼も一緒にいらっしゃいよ」唯花は「夫は今日出張に行ったばかりなんです。たぶん暫くの間帰ってきません。彼が帰ってきたら、一緒に詩乃伯母さんのお宅にお邪魔します」と返事した。「出張に行ってらっしゃるのね。なら、彼が帰って来てからお会いしましょう」詩乃はすぐに姪の夫に会えなくても特に気にしていなかった。彼女にとって、二人の姪のほうが重要だったからだ。今、彼女は姪を見つけることができて、姪二人にはこの神崎詩乃という後ろ盾もできた。ちょうど唯花に代わってその夫が頼りになる人物なのか見極めることができよう。「あなたのお姉さんは五時半にお仕事が終わるのよね?」「ええ」神崎夫人は時間を見て言った。「お姉さんはどこで働いていらっしゃるの?」「東グループです」神崎夫人は「そ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第591話

    姫華は父親である神崎航と一緒に母親を気にかけていたので、理紗が忘れずにこの鑑定結果を持ってきたのだった。唯花は理紗から渡された鑑定結果を受け取って見た。彼女はその結果を見た後、少しの間沈黙してからそれをテーブルの上に置いた。「唯花ちゃん、あなたは私の姪よ。私のことは詩乃伯母さんって呼んでね」今世では妹と再会を果たすことはできなかったが、妹の娘である二人の姪を見つけることができただけでも、神崎詩乃(かんざき しの)にとっては一種の慰めになった。彼女は唯花の手をとり、自分のことを「詩乃伯母さん」と呼ばせた。「唯月ちゃんは?それから陽ちゃんも」神崎詩乃はもう一人の姪のことも忘れていなかった。「姉は昼にはここへは来ないんです。夕方五時半に退勤したら帰ってきますよ」唯花はそう説明して、明凛のほうを見た。明凛が陽を抱っこして近づいて来て、唯花が彼を抱っこした。「神崎おば様……」唯花がそう言うと、詩乃は言った。「唯花ちゃん、私のことは詩乃伯母さんって呼んでね。私はずっとあなた達を見つけられるのを夢見ていたのよ。ようやく見つけたんだから、そんな距離感のある言い方で呼ばれると寂しいわ」唯花は少し黙った後「詩乃伯母さん」と言い直した。DNA鑑定結果はもう出てきたのだ。彼女が神崎詩乃の血縁者であることが証明されたのだから、神崎夫人はまさに彼女の伯母にあたるのだ。本当にまるでドラマのようだ。詩乃は唯花に詩乃伯母さんと呼ばれて、目をまた赤くさせた。そして姫華がこの時急いで言った。「お母さんったら、もう泣かないで。陽ちゃんもいるのよ、お母さんが泣いたりしたら、陽ちゃんを驚かせちゃうでしょ」明凛と清水はみんなにお茶とフルーツを持ってやってきた。詩乃は陽を抱っこしたいと思っていたが、陽のほうはそれを嫌がり、背中を向けて唯花の首にしっかりと抱きついた。「陽ちゃん、こちらはおばあちゃんのお姉さんなのよ」詩乃は立ち上がって、陽をなだめようとした。「いらっしゃい、おばあちゃんが抱っこしてあげる、ね」しかし陽は彼女の手を振り払い「やだ、やだ、おばたんがいいの」と叫んだ。詩乃は陽が過剰な反応をしたのを見て、諦めるしかなかった。そして少し前の出来事を思い出し、彼女はまた容赦なくこう言った。「あの最低な一家が、陽ちゃんにショックを

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第590話

    数台の高級車が遠くからやって来て、星城高校の前を通り過ぎ、唯花の本屋の前に止まった。隣の高橋の店で暇だからおしゃべりをしていた結城おばあさんが、道のほうに目を向けると数台の高級車がやって来ていた。そしてすぐに顔をくるりと元の位置に戻し、わざと頭を低くした。あの数台の車から降りてきた人に見られないようにしたのだ。「唯花、唯花」姫華が車から降りて、唯花の名前を呼びながら店の中へと小走りに入ってきた。その時は隣の店でおしゃべりしていた結城おばあさんを全く気にも留めていなかった。その後ろの車から降りてきた神崎夫人の夫の神崎航がボロボロに泣いている妻を支えながら、娘の後ろに続いて店の中に入ってきた。理紗はボディーガードたちに入り口で待機するように伝え、それから彼女も店の中へと入ってきた。唯花は三分の一ほどビーズ細工のインコを作り終えたところで、姫華に呼ばれる声を聞き、その手を止めて姫華のほうへ視線を向けた。「姫華、来たのね。ご飯は食べた?もしまだなら……」その時、神崎夫人が夫に支えられて入ってきて、夫人が涙で顔を濡らしているのを見て、唯花は状況を理解した。神崎夫人はDNA鑑定の結果を手にしたのだ。神崎夫人のその顔を見れば、聞くまでもなく彼女と神崎夫人には血縁関係があるのだということがわかった。「唯花ちゃん――」神崎夫人は急ぎ足で、レジ台をぐるりを回って彼女のもとへとやって来て、唯花を懐に抱きしめ泣きながら言った。「伯母さんにもっと早く見つけさせてよ――」彼女はそれ以上他に言葉が出てこないらしく、ただ唯花を抱きしめて泣き続けた。唯花は彼女に慰める言葉をかけたかったが、自分もこの時何も言葉が出せなかった。「私の可哀想な妹――」神崎夫人は妹がすでに他界していることを思い、また大泣きした。唯花は彼女と一緒に涙を流した。明凛は陽を抱っこして清水と一緒に遠くからそれを見守っていた。陽は全くどういうことなのかわかっていない様子だった。姫華と理紗も目を真っ赤にさせていた。神崎航がやって来て、妻を唯花から離し、優しい声で慰めた。「泣かないで、姪っ子さんが見つかったんだ、良かったじゃないか。私たちは喜ぶべきだろう。そんなふうにずっと泣いてないで、ね」神崎夫人は夫に支えられて椅子に腰かけた。妹の不幸な境遇と、二人の

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第589話

    「内海のクソじじい、あんたはしっかり私から百二十万受け取っただろうが。現金であげただろう、あれは私がずっと貯めていたへそくりだったんだよ。あの金を受け取る時にあんたは唯花を説得してみせると豪語してたじゃないか。それがあんたは何もできずに、うちの息子はやっぱり唯月と離婚してしまったんだぞ。だからさっさと金を返すんだよ。じゃないと本気で警察に通報するわよ」佐々木母は内海じいさんがどうしても認めようとしないので、怒りで顔を真っ赤にさせていた。内海じいさんは冷たい顔で言った。「もし通報するってんなら、通報すりゃええだろ。俺がそんなことを怖がるとでも思ってんのか。俺はお前から金を受け取ってないし、もし受け取っていたとしてもそれが何だって言うんだ?それは唯月が結婚した時の結納金の補填だろう。うちの孫娘がお宅の息子と結婚する時に一円も出しゃあしなかったくせによ。結納金に代わって百万ちょいの補填だけで済んだんだぞ。お宅にも娘がいるだろ。その娘が結婚する時に一円も結納金を受け取らずにタダで娘を婿側に送ったのか?」佐々木母はそれを聞いて腹を立てて言った。「なにが結納金だ、お前は唯月を育ててきたのか?そうじゃないくせに結納金を受け取る資格があんたにあるとでも?彼らはもう離婚したってのに、馬鹿みたいにあんたらに結納金を今更補填してあげるわけないでしょうが。さっさと金を返すんだよ!」「金なんかねえ。命ならあるけどな。それでいいなら持って行くがいい」内海じいさんは、もはやこの世に何も恐れるものなど何もないといった様子で、佐々木母はあまりの怒りで彼に飛びかかって引き裂いてやりたいくらいだった。そこに英子が母親を引き留めた。「お母さん、あいつに触っちゃダメよ。あいつはあの年齢だし、床に寝転がりでもされちゃったら、私たちが責任を追及されちゃうわよ」「ああ、じいさんや、私はすごくきついよ。もう息もできないくらいさ。こいつらがここで大騒ぎしたせいで私まで気分が悪くなってきたみたいだ。死にそうだよ……」病床に寝ていたおばあさんが突然、気分が悪そうな様子で胸元を押さえて荒い呼吸をし始めた。内海じいさんはすぐにナースコールを押して、医者と看護師に来るように伝えた。そして、佐々木母たち三人に向って容赦なく言った。「もしうちのばあさんがお前らのせいで体調を悪化させた

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第588話

    唯花は笑って言った。「姫華が言ってたの、九条さんって情報一家らしいわ。彼と一緒にいたら、ありとあらゆる噂話が聞けるわよ。あなたって一番こういうのに興味があるでしょ。九条さんってまさにあなたのために生まれてきたみたいな人だわ、あなた達二人とってもお似合いだと思うけど」明凛「……」彼女が彼氏を探しているのは、結婚したいからなのか、それとも噂話を聞くためなのか。「そういえば、お姉さんの元旦那のあの一家がまた来たって?」明凛は急いで話題を変えた。親友に自分の噂話など提供したくないのだ。「お姉ちゃんと佐々木のクソ野郎が離婚して、お姉ちゃんがあの家から出て行ったでしょ。あいつらは待ってましたと言わんばかりに引っ越して来ようとしてたわけ。だけど、今は部屋を借りるかホテル暮らしするか、はたまた実家に帰るしかなくなったでしょ。あの一家は絶対市内で年越ししたいと思ってるはずよ。実家には帰らないでしょうね」佐々木一家は絶対に実家のご近所たちに、年越しは市内でするんだと言いふらしていたはずだ。だから、住む家がなくとも、彼ら一家は部屋を借りるまでしてでも、市内で正月を迎えようとするに決まっている。唯花は幽体離脱でもして佐々木家に向かい、彼らの様子を見てみたいくらいだった。「あの人たち、家の内装がなくなってめちゃくちゃになった部屋を見て、きっと大喜びして失神したことでしょうね」唯花はハハハと大笑いした。「そりゃそうね」唯花が今どんな状況なのか興味を持っている佐々木家はというと、この時、すでに内海じいさんがいる病院までやって来ていた。内海ばあさんは術後回復はなかなか順調で、もう少しすれば退院して家で休養できるのだった。佐々木母は娘とその婿を連れて病室に勢いよく入っていった。佐々木父は来たくなかったので、ホテルに残って三人の孫たちを見ていた。ただ佐々木父は恥をかきたくなかったのだ。「このクソじじい」佐々木母は病室に勢いよく入って来ると、大声でそう叫んだ。内海じいさんは彼女が娘とその婿を連れて入ってきたのを見て、不機嫌そうに眉をしかめた。彼の息子や孫たちはどこに行ったのだ?誰もこの狂ったクソババアを止めに入りやしないじゃないか。「これは親戚の佐々木さんじゃないですか、うちのばあさんはまだ病気なんで、静かにしてもら

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status